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広島高等裁判所 昭和33年(ネ)39号 判決 1966年4月22日

控訴人(第三九号事件) 中国モータース株式会社

控訴人(第三八号事件) 浦山和夫

被控訴人 日本電建株式会社

主文

原判決中、控訴人中国モータース株式会社に対し、所有権保存登記の抹消登記手続を命じた部分を取り消す。

被控訴人の右請求を棄却する。

被控訴人の控訴人浦山和夫に対する新請求を棄却する。

訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は、主文同旨の判決を求め、被控訴代理人は、保存登記の無効確認を求める部分の訴を取り下げ、「控訴人中国モータース株式会社の控訴を棄却し、控訴人浦山和夫は、別紙第二目録表示の建物につき、山口地方法務局昭和三二年一一月一二日受附第五、七八八号、同年一〇月二四日付競落許可決定を原因とする所有権移転登記の抹消登記手続をせよ、控訴費用は控訴人らの負担とする」との判決を求めた。

当事者双方の事実の陳述ならびに証拠の関係は、左記のほか。原判決の事実摘示と同一であるから、これを引用する。

被控訴代理人において、訴外山口県信用保証協会の申立による任意競売において、控訴人浦山和夫は競落人となり、別紙第二目録表示の不動産につき、山口地方法務局昭和三二年一一月一二日受附第五、七八八号により同年一〇月二四日付競落許可決定を原因とする所有権移転登記をえた、しかし右建物の所有権保存登記が被控訴人従来主張の事由により無効である以上、これに対する抵当権設定登記ならびに該抵当権の実行もまた無効であるから、控訴人浦山和夫は競落により右建物の所有権を取得するいわれなく、従ってその所有権取得も無効である、よって右控訴人に対し前記所有権移転登記の抹消登記手続を求める、と述べ、控訴代理人において、控訴人浦山和夫が被控訴人主張の如く競落による所有権移転登記をえたことは認めるが、同人は適法な競売手続において競落により有効に所有権を取得したから、その登記を抹消すべきいわれはない、と述べた。<証拠省略>

理由

山口市大字下宇野令字中樋ノ口第一、一〇九番の一所在平家建工場および二階建居宅各一棟(以下本件建物という)につき、右平家建工場に対しては昭和二九年六月一日、二階建居宅に対しては同年五月二八日、いずれも訴外阿部光伺名義で第一目録(1)(2)表示の建物として、また同年八月九日には控訴人中国モータース株式会社名義で第二目録(1)(2)表示の建物として、それぞれ所有権保存登記がなされたこと、右第一目録(1)(2)表示の建物には被控訴人のため、第二目録(1)(2)表示の建物には訴外山口県信用保証協会のため、いずれも被控訴人主張の抵当権設定登記のされたこと、および右保証協会の抵当権実行による任意競売手続において控訴人浦山和夫がこれを競落し、同人のため被控訴人主張の所有権移転登記のされていることは、すべて当事者間に争がない。

被控訴人は右所有権保存登記のうち、控訴人中国モータース株式会社名義のものは、訴外阿部光伺名義のものよりも後になされたから無効であり、したがってこれに対してなされた訴外山口県信用保証協会の根抵当権設定登記ならびに該抵当権の実行もまた無効であるから、控訴人浦山和夫は競落により所有権を取得するいわれはない、と主張するに対し、控訴人らは本件建物の所有者は右阿部光伺ではなく控訴会社であるから、前になされた光伺名義の登記は実体にそわない無効の登記であって、後になされた控訴会社の登記こそ真実に合する有効な登記である、と反駁するので、本件建物に対する所有権保存登記およびその後控訴人浦山和夫が競落するにいたるまでの事情につき案ずるに、<省略>

次の事実を認めることができる。すなわち

訴外阿部浅太郎は個人経営にかかる自動車の販売修理業を会社組織に改め、昭和二七年一二月九日控訴会社を設立したが、その資本金一〇〇万円は右訴外人が事実上出資し、同人が代表取締役として、一、〇〇〇株、長男智元(現代表取締役)が専務取締役として三〇〇株、次男光伺が常務取締役として二〇〇株の株主となり、残五〇〇株については得意先等四名が株主となったが、その経営の実態は浅太郎の個人経営と同様であった。浅太郎は会社設立に伴い工場の移転新築を計画し、昭和二七年一〇月ごろ被控訴会社との間に、同人および次男光伺名義で一口一〇万円各六口の建築給付契約を締結すると共に、同年一二月にはその敷地を買い入れ、翌二八年に右建築給付を受けることとなって、八月ごろ本件建物の建築が始まり、翌二九年五月ごろ竣工してその引渡を受けた。この間浅太郎は自己名義の右六口の加入権の名義を被控訴会社の承諾を得て阿部光伺に変更したので、昭和二九年五月二九日付の未払掛金弁済契約公正証書の債務者および抵当権設定者は阿部光伺名義となり、したがって被控訴会社は約款に基き、右光伺名義で別紙第一目録表示のとおり所有権保存登記のなされた本件建物に対し、被控訴人主張の抵当権設定登記をした上、前記引渡も受給付者である光伺に対してなされた(建物所有権は約款により右諸手続を了した上、引渡によって被控訴会社から受給付者に移転するものと定められていた)。ところが本件建物は、前記の如く控訴会社の営業のために建築したもので、その敷地も同会社の所有名義となっており、被控訴会社に対する掛金もその大部分は控訴会社が支出していることとて、光伺は本件建物を控訴会社のために使用し、または処分することを父浅太郎に一任し、浅太郎の一存によりいかなる形で処分されようと異存はなかった。そこで浅太郎は会社の金融をうるために、すでに被控訴会社のため抵当権の設定してある光伺名義の保存登記を利用しないで、別途に別紙第二目録表示の建物として冒頭掲記の所有権保存登記を控訴会社名義でした上、前記信用保証協会に対し根抵当権設定登記をしたが、会社が債務の弁済をしなかったため、同協会は抵当権の実行をした結果、前記の如く控訴人浦山和夫が脱落し、同人のため競落による所有権取得登記がされた。

右認定に反する前記阿部光伺、阿部浅太郎および控訴会社代表者阿部智元の各供述部分は、前顕各証拠に照らし措信できない。

右認定事実によれば、訴外阿部光伺名義の本件建物所有権保存登記は真実の所有者によってなされたものとして有効であり、その後控訴会社名義でなされた所有権保存登記はいわゆる二重登記として無効といわねばならない。しかし光伺は浅太郎が控訴会社の金融をうるため本件建物を担保に供する際には、光伺名義のままでしようと、控訴会社の名義に移した上でしようと異存はなかったものと解するのを相当とする。したがって浅太郎が控訴会社の代表者として前記信用保証協会のためにした本件建物に対する抵当権の設定は、それに先立ち右建物が光伺から控訴会社に譲渡されておればもとより、かりに実体上の所有権譲渡の事実がなかったとしても、浅太郎が光伺から委ねられた処分権の範囲内の行為として有効とすべきであるから、右抵当権の設定登記が無効な所有権保存登記に基きなされていても、該抵当権の実行は有効であり、控訴人浦山和夫は競落により本件建物の所有権を取得するにいたったものである。したがって、該建物の上に存する抵当権は浦山の右競落により消滅すべきことは、競売法二条二項の規定により明らかである。もっとも、被控訴人の抵当権は別紙第二目録表示の建物登記簿はこれが設定登記はないけれども、いやしくも、本件建物に対して設定された抵当権である以上、抵当権の実行による競落があったときは、その効果として優先弁済を目的とする一切の権利を消滅せしめ、かかる負担のない物件として競落人にこれを取得せしめようとする競売法の趣旨に鑑みれば、本件の場合にこれを別異に解すべき理由はない。また右競売手続において、競売申立人である前記信用保証協会より先順位にある被控訴人に対し競落代金の交付をすべきにかかわらず、これがなされなかったとしても、それは抵当権者相互の間で解決さるべきことであって、これがため前記抵当権の消滅に影響を与えるものではない。

以上の理由により、被控訴人の本件建物に対する抵当権は控訴人浦山の競落により消滅に帰したのであるから、被控訴人は抵当権者として控訴会社に対しその所有権保存登記、控訴人浦山に対しその所有権移転登記の各抹消登記手続を請求することはできないものといわねばならぬ。<以下省略>

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